猫の歯根膿瘍の症状と原因、治療について|獣医師が解説
歯科 症例紹介猫の歯根膿瘍の症状と原因、治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫の歯根膿瘍(しこんのうよう)は、歯の根元に感染が発生し、膿が溜まってしまう状態です。これは、口内の疾患の中でも特に痛みを伴いやすく、放置すると重篤な状態に進行することがあります。本記事では、歯根膿瘍の原因や症状、治療方法、そして予防について詳しく解説します。
猫の歯根膿瘍とは?
歯根膿瘍とは、歯の根元に細菌が感染し、その周囲に膿が溜まった状態を指します。この膿は体の自然な免疫反応によって形成されますが、歯根周囲の炎症や痛みを引き起こし、猫の生活に深刻な影響を及ぼします。
進行すると、深刻な食欲不振と口臭、歯の脱落や骨の損傷、全身への感染症(敗血症)に発展するリスクもあるため、早期発見と治療が重要です。
歯根膿瘍の原因
歯根膿瘍の原因は、主に以下の要因が挙げられます:
1. 歯周病
猫の歯根膿瘍の最も一般的な原因は、歯周病の進行です。歯垢や歯石が歯肉に蓄積することで細菌が増殖し、歯根部に感染が広がります。猫は体質の問題か、自分の歯を自分の免疫力が攻撃することで生じてしまう猫の歯牙疾患を引き起こすことがあり、十分なデンタルケアをしていても歯周病が悪化し、歯根膿瘍を発生することがあります。
2. 歯の破折(折れた歯)
硬いもの(骨や玩具など)を噛んだ際に歯が折れると、その隙間から細菌が侵入して感染を引き起こすことがあります。
3. 外傷
顔や顎に外傷を負った場合、歯や歯根が損傷し、そこから感染が広がることがあります。
4. 免疫力の低下
猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している猫では免疫力が低下し、細菌感染に対する防御力が弱まるため、膿瘍が発生しやすくなります。
歯根膿瘍の症状
歯根膿瘍は初期のうちは症状が目立たないこともありますが、進行するにつれて以下のような症状が現れることがあります。
初期症状
• 食欲の低下:痛みのために食べたがらなくなる。
• 口臭:口腔内の感染により強い臭いが発生する。
• よだれ:痛みや不快感でよだれが増える。
進行期の症状
• 顔の腫れ:特に目の下や鼻の周囲が腫れることがあります(上顎の歯根膿瘍の場合)。
• 鼻水やくしゃみ:鼻腔に近い部分が炎症を起こすと、これらの症状が現れることがあります。膿(うみ)に近い鼻水が出ることが多いです。
• 歯肉の腫れや膿の排出:歯肉に膿の出口ができることがあり、そこから黄色い膿が出ることがあります。
重症例の症状
• 歯のぐらつきや脱落:膿瘍が進行すると、歯が抜ける場合があります。
• 元気消失:痛みや感染が全身に影響し、活動量が低下します。
• 体重減少:長期間にわたる食欲不振が原因で体重が減る。
これらの症状が見られた場合、早急に動物病院を受診することをおすすめします。
歯根膿瘍の診断方法
動物病院では、以下の手順で歯根膿瘍の診断を行います:
1. 視診と触診
口腔内を観察して、歯肉の腫れや膿の有無、歯のぐらつきを確認します。また、顔の腫れや痛みの有無もチェックします。
2. X線検査
歯根の状態を確認するためにX線検査を行います。歯根の周囲に骨の損傷や膿の溜まりが見られることがあります。
3. 血液検査
全身状態を評価するために血液検査を行います。猫エイズや猫白血病などの感染症や炎症の程度、免疫状態を確認します。
4. 細胞診や培養検査
膿を採取して細菌の種類を特定し、適切な抗生物質の選定に役立てます。
歯根膿瘍の治療法
歯根膿瘍の治療は、感染を抑え、膿を除去し、再発を防ぐことを目的に行われます。以下の方法が一般的です:
1. 抗生物質の投与
膿瘍部分の細菌感染を抑えるために抗生物質を使用します。ただし、抗生物質だけでは膿瘍が完全に治癒しない場合が多いため、追加の治療が必要です。
2. 歯の抜歯
感染した歯を抜歯することで、歯根膿瘍の原因を取り除きます。これは最も一般的で効果的な治療法です。猫の食べ物の消化は、現在キャットフードを主食としているため、歯が大きな役割を果たしていません。このため問題の歯を抜歯し取り除くことで、食欲が戻り、健康を取り戻すことがほとんどです。
3. 膿の排出
膿が溜まっている場合、切開して膿を排出し、患部を清潔に保つ処置を行います。
4. 痛みと炎症の管理
鎮痛剤や抗炎症剤を使用して、猫の痛みや不快感を軽減します。
5. 食事の調整
治療中は柔らかい食事を与えることで、口内の負担を軽減します。
治療後のケアと再発予防
治療が完了した後も、再発を防ぐためには適切なケアが重要です。以下のポイントを押さえておきましょう:
1. 定期的な歯科検診
動物病院での定期的な歯科検診を受け、歯周病や歯の異常を早期に発見するようにしましょう。
2. 歯磨きの習慣化
歯周病を防ぐために、猫用の歯ブラシと歯磨きペーストを使って定期的に歯磨きを行います。ただし猫の歯牙疾患が疑われる事例では、歯磨きによって痛みや出血を生じやすいことがあるので、病院での診察を経て、歯磨きを行なった方が良いか判断してもらってから行うことをお勧めします。
3. 歯石除去
必要に応じて、獣医師によるプロフェッショナルな歯石除去を受けることを検討してください。
4. 免疫力の向上
栄養バランスの良い食事を与え、猫の免疫力を高めることで、感染症のリスクを減らします。
歯根膿瘍を放置するとどうなる?
歯根膿瘍を放置すると、以下のような深刻な問題が発生する可能性があります:
• 歯槽骨の損傷:膿瘍が骨に影響を及ぼし、骨が溶けてしまう。
• 敗血症:感染が全身に広がり、命に関わる状態になる。
• 慢性化:膿瘍が再発し、治療が難しくなる。
これらのリスクを避けるためにも、早期に動物病院で治療を受けることが重要です。
まとめ
猫の歯根膿瘍は、口内の感染が原因で発生し、痛みや不快感を伴う疾患です。早期発見と適切な治療を行えば、予後は良好です。以下のポイントを心掛けて、愛猫の健康を守りましょう:
• 定期的な口腔チェック:食欲低下や口臭、顔の腫れが見られたらすぐに獣医師に相談。
• 歯磨きの習慣化:歯周病を防ぐために、日頃から歯のケアを行う。
• 治療後のケアを徹底:治療後も定期検診を受け、再発を防ぐ。
愛猫の健康を守るため、日々のケアと観察を大切にしましょう。
この子は右の犬歯の重度の歯根膿瘍のため、食欲が低下し、唇の皮膚がただれ壊死しています。慢性腎不全を持っているため、呼気中に尿毒症物質が出ることにより歯周病と栄養状態が悪化してしまったことも関与しています。歯がぐらついていたため、局所麻酔によって障害した犬歯を抜歯し、壊死した皮膚を切除しました。
抜歯処置を行なった翌日から食欲が回復し、体重ば減らなくなりました。慢性腎不全用の処方食のキャットフードのみで飼育することで、呼気の尿毒症物質が目立たなくなり、元気も回復しました。壊死した皮膚のえぐれは少し残っていますが、本人は苦痛を感じなくなって快適そうです。処置後1ヶ月のいまは毛ヅヤも回復し健康的になっています。
この子は右の鼻から膿のような鼻水が出ています。抗生物質で治療しましたが良くならず、犬歯の歯根膿瘍が疑われたため、歯石の除去と抜歯を行いました。
犬歯は歯冠部が腫れ赤くなっています。臼歯には重度に歯石が沈着しています。こうなってしまうと獣医師による歯石除去と抜歯を含めた治療処置を行わないと改善しません。良く見ると他の歯もほとんどが歯周炎を起こしているので、この子は猫の歯牙疾患と呼ばれる、この子の体質や免疫力の影響で生じている歯の問題であることが類推されます。この子は問題の犬歯を抜歯し、超音波スケーラーで歯石除去術を行うことで、膿の鼻水も改善し、食欲や口臭も改善しました。
当院では猫の歯の問題に応じてその子にあった治療を行なっていますので、お気軽にご相談ください。