犬の肛門周囲瘻の症状と原因、治療について|獣医師が解説
皮膚科 症例紹介犬の肛門周囲瘻の症状と原因、治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
犬の肛門周囲瘻(こうもんしゅういろう)は、肛門周囲に深刻な炎症や感染を引き起こす疾患です。特に、進行すると痛みや感染症のリスクが高まり、犬の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。本記事では、肛門周囲瘻の原因や症状、治療法、そして予防策について詳しく解説します。
肛門周囲瘻とは?
肛門周囲瘻(英語:Anal Furunculosis)は、**肛門周囲の皮膚に形成される潰瘍(かいよう)やトンネル状の病変(瘻孔)**を特徴とする疾患です。この瘻孔が進行すると、感染や慢性的な痛みが発生します。
特にジャーマン・シェパードやそのミックス犬に多く発症する傾向がありますが、どの犬種でも起こり得ます。慢性化すると治療が難しくなるため、早期発見が重要です。
肛門周囲瘻の原因
肛門周囲瘻の正確な原因は未解明な部分もありますが、以下の要因が関与しているとされています:
1. 解剖学的要因
• ジャーマン・シェパードのような尾の付け根が低く、肛門周囲の皮膚に通気性が悪い構造を持つ犬では、細菌の繁殖が起こりやすいとされています。
2. 免疫の異常(体質上の問題)
• 肛門周囲瘻は自己免疫疾患と関連している可能性があり、体の免疫系が自らの組織を攻撃して炎症を引き起こします。つまり体質上の問題が関連していることが考えられるため、再発を繰り返すことがあります。
3. 感染症
• 細菌や真菌(カビ)の感染が炎症を悪化させ、瘻孔を形成することがあります。
4. 排泄物や物理的な刺激
• 慢性的な肛門腺炎や便の付着が、肛門周囲の皮膚を刺激して炎症を引き起こす場合があります。また、排便後毎回肛門をティッシュなどでふくなどの物理的刺激によって炎症が躍起され肛門周囲瘻に発展することもあります。
肛門周囲瘻の症状
症状は軽度から重度まで幅広く、進行するにつれて犬の生活に大きな支障をきたします。
初期症状
• 肛門周囲の赤みや腫れ
• 肛門を頻繁になめる、または擦り付ける行動
• 軽度の痛みや違和感
進行期の症状
• 肛門周囲に潰瘍が形成される
• 悪臭のある分泌物や膿が出る
• 排便時の激しい痛み(排便困難)
• 肛門周囲の皮膚が硬くなったり、黒ずんだりする
重症例の症状
• 瘻孔の拡大と感染
• 高熱や元気消失(全身症状)
• 食欲不振や体重減少
• 腹部や後肢への痛みの放散
診断方法
肛門周囲瘻の診断は、以下の方法で行われます:
1. 視診・触診 肛門周囲の炎症や潰瘍、瘻孔の有無を確認します。
2. 細胞診・培養検査 分泌物を採取して、感染の原因となる細菌や真菌を特定します。
3. 血液検査 全身の炎症の有無や免疫異常を評価します。
4. 免疫抑制剤への反応 抗生物質など細菌繁殖を抑える薬への反応が不十分で、シクロスポリンやプレドニゾロンなどの免疫抑制薬へのみ反応が認められるとき、肛門腺炎など肛門周囲の感染症と区別されます。
肛門周囲瘻の治療法
治療法は、症状の重さや犬の健康状態に応じて選択されます。内科治療と外科治療を組み合わせることが一般的です。
1. 内科治療
(1) 抗生物質
• 感染を抑えるために使用します。ただし、根本治療にはならないことが多いです。
(2) 免疫抑制剤
• シクロスポリンなどの薬を使用して、免疫系の過剰な反応を抑えます。
(3) 鎮痛剤・抗炎症剤
• 痛みを和らげ、炎症を軽減します。
(4) 特殊なシャンプーやクリーム
• 抗菌作用のある洗浄剤や軟膏を使用して肛門周囲を清潔に保ちます。
2. 外科治療
内科治療で改善が見られない場合や重度の症例では、外科的な処置が必要になります。
(1) 瘻孔の切除
• 瘻孔や病変部分を外科的に除去する方法です。
(2) 肛門腺の摘出
• 肛門腺が原因となっている場合は、肛門腺を取り除く手術を行います。
(3) 瘻孔形成の防止手術
• 肛門周囲の皮膚の構造を修正し、再発を防ぎます。
肛門周囲瘻の予後
治療を適切に行えば、多くの犬は症状が改善します。ただし、再発する可能性も高いため、以下の点に注意する必要があります。
• 定期的なチェック:治療後も獣医師による定期診察を受ける。
• 衛生管理:肛門周囲を常に清潔に保つ。
• 適切な食事:消化の良い総合栄養食のフードを与え、便が硬くならないようにする。
まとめ
肛門周囲瘻は犬にとって非常に苦痛を伴う病気ですが、早期発見と適切な治療で回復が期待できます。愛犬に以下のような症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診してください:
• 肛門周囲の赤みや腫れ
• 痛みを伴う排便
• 悪臭のある分泌物
また、日常的なケアや健康管理を通じて、この疾患を予防することが可能です。愛犬が快適で健康な生活を送れるよう、飼い主としてしっかりサポートしていきましょう。
肛門周囲瘻が疑われるミニチュアダックスの子の肛門周囲の写真です。抗生物質の内服薬で治療しましたが良くならないこと、肛門腺炎による自潰(膿の排泄による創の解放)とは違う位置(肛門腺炎の部位より少し背側)に穴が空いていること、創傷周囲の治癒機転(皮膚が再生しようとする様子)が乏しいことなどから、犬や猫で良く見られる肛門腺炎とは少し違うことがわかります。この子も最初抗生物質だけで治療して、傷が塞がらないので、シクロスポリンの内服を始めました。
シクロスポリンを使用して4週間後の写真です。創傷治癒が進み、創の拘縮を伴って穴が閉塞しつつあります。このような事例は再発することが多く、シクロスポリンで完全に穴が塞がった後、休薬して、再び穴が空いてくるような場合は、シクロスポリンの間欠的な投薬や外科手術が必要になることがあります。