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犬の大きな傷(特に汚染創)の治療について|獣医師が解説 NEW

皮膚科 症例紹介

犬の大きな傷(特に汚染創)の治療について|獣医師が解説

福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
犬の外傷の中でも「大きな傷」や「汚染された傷(汚染創)」は、通常の切り傷とは全く異なる対応が必要になります。
適切な初期対応を誤ると、感染・壊死・治癒遅延などのリスクが一気に高まります。
この記事では、臨床現場で重要となる「汚染創の基本戦略」を、実践的に解説します。

汚染創とは何か?

汚染創とは、以下のような状態の傷を指します。
•    咬傷(犬同士の喧嘩など)
•    土や砂、異物が入り込んだ外傷
•    受傷から時間が経過している傷(6〜8時間以上)
•    壊死組織を伴う傷
これらは細菌汚染が前提の傷であり、「すぐ縫えばよい」というものではありません。

基本原則:汚染創は“閉じない”が基本

もっとも重要なポイントはここです。
●汚染創は原則として一次縫合しない
理由は明確です。
•    内部に細菌を閉じ込める
•    膿瘍形成のリスク増大
•    組織壊死の進行
したがって治療の基本は
●開放管理(open wound management)
になります。

初期治療の流れ(超重要)

① 広範囲の毛刈りと洗浄
•    傷の周囲を十分に広く刈毛
•    生理食塩水で徹底的に洗浄(大量が基本)
•    必要に応じて希釈クロルヘキシジン
● ポイント
「見た目より深く汚れている」と考える

② デブリードマン(壊死組織の除去)
•    明らかな壊死組織は積極的に切除
•    迷う組織は温存し再評価(段階的デブリードマン)
●咬傷では特に皮下の損傷が広いので注意

③ ドレナージの確保
•    ポケット状の死腔は必ず開放
•    必要に応じてペンローズドレーン設置
●「排出できない傷は必ず悪化する」

④ 開放創管理(湿潤環境)
•    ガーゼ交換または湿潤ドレッシング(Wet to Dry ドレッシング)
•    1日1回〜複数回の評価
●近年は湿潤環境が治癒促進に重要

⑤抗生物質の使い方
汚染創では抗生物質は重要ですが、
● 外科処置が最優先で、抗生物質は補助
です。
● 感染が進行している場合は培養・感受性試験も検討

⑥縫合のタイミング(Delayed Primary Closure)
汚染創でも、適切に管理すれば縫合可能になります。
縫合の目安
•    感染兆候が消失
•    健康な肉芽形成
•    滲出液が減少
●通常は 3〜5日後以降(それ以上かかることも)
これを
●遅延一次縫合(Delayed Primary Closure)
といいます。

⑦よくある失敗
臨床で非常に多いのが以下です。
❌ 全身麻酔下ですぐ縫ってしまう
→ 膿瘍形成 → 再手術
❌ 洗浄不足
→ 感染持続
❌ 死腔の見逃し
→ ドレナージ不全
❌ 壊死組織の温存
→ 治癒遅延

治療成功ポイント

治療成功には飼い主さんの理解が不可欠です。
•    すぐ縫えない理由を理解いただく
•    毎日の処置が必要なこと
•    治癒に時間がかかること
● 「開放している=治療が遅れている」ではない

まとめ

犬の大きな汚染創の治療は、
● 外科的洗浄・デブリードマン・ドレナージがすべて
です。
そして最も重要な判断は
● “今は閉じない勇気”
です。
この判断が、予後を大きく左右します。


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無麻酔で大きな汚染創の治療に成功した事例を紹介します。犬の体質の影響か、他院での皮下点滴で大きく背中の皮膚が壊死してしまい、背中に大きな壊死組織(汚染創)ができてしまったトイプードルの事例です。写真でわかりづらいですが、黒く変色した皮膚の壊死創(10cm×15cmの楕円状)が、浸出液を伴って毛と絡んで左肩に存在しています。


周りの毛を刈ると黒く変色した壊死創がはっきりわかります。最初プラスモイストというドレッシング材を用いて一日一回の創傷管理をしていましたが、壊死組織がうまく溶解してくれなかったためにWet to Dryドレッシングという、生理食塩水で湿らせたガーゼを壊死組織の上に敷き詰めて壊死組織を溶解させて取り除く創傷治療を行いました。


これがWet to Dryドレッシングで壊死組織にガーゼを敷き詰めた画像です。何回めかに黒かった壊死組織が溶解し、ガーゼを変えるたびに取り除かれてゆきます。


ガーゼを取り除くと、緑色に変色した壊死組織(緑膿菌で汚染しているため、緑色で線香臭がします)が見えます。1日一回程度ガーゼ交換をすることで、溶けた壊死組織が、痛みを伴わず取り除かれていきます。(これを壊死組織のデブリードマンと言います)


何日か繰り返すと壊死組織が取り除かれ、健常肉芽組織が見られる様になります。こうなると傷が拘縮し、小さくなり、もう少しで縫合して傷がくっつく様になります。


壊死組織が無くなったところで縫合し、遅延1次縫合に持ち込みことができました。治療期間は2ヶ月程度はかかりましたが、最後は無麻酔で縫合することができました。皮膚欠損が大きい汚染創の治療は時間がかかりますが、適切に行うと動物への負荷を最小限に行うことができます。