犬の糖尿病性ケトアシドーシスの症状と原因、治療について|獣医師が解説 NEW
内分泌科 症例紹介犬の糖尿病性ケトアシドーシスの症状と原因、治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
犬の糖尿病は比較的よく見られる病気のひとつですが、その中でも命に関わる危険な合併症が 「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」 です。今回は、犬の糖尿病性ケトアシドーシスについて、その症状・原因・治療法を獣医師の視点から解説します。
糖尿病性ケトアシドーシスとは?
糖尿病によって体内のインスリンが不足すると、血糖値が高くなるだけでなく、細胞がブドウ糖をうまく利用できなくなります。その結果、エネルギー源として脂肪が過剰に分解され、「ケトン体」という物質が大量に産生されます。
ケトン体が増えすぎると血液が酸性に傾き、 「アシドーシス」 という危険な状態に。これが糖尿病性ケトアシドーシスです。進行が早く、治療が遅れると命に関わるため、早期発見と治療が極めて重要です。
犬の糖尿病性ケトアシドーシスの症状
糖尿病の症状に加えて、急速に全身状態が悪化するのが特徴です。主な症状は以下の通りです。
• 強い元気消失、ぐったりして動けない
• 食欲不振、嘔吐、下痢
• 体重減少が急速に進む
• 大量の飲水と頻尿(ただし進行すると脱水で尿が出なくなることも)
• 脱水による皮膚のハリ低下、粘膜の乾燥
• 速く浅い呼吸(クスマウル呼吸)
• アセトン臭(甘酸っぱい匂い)の口臭
• 重症になると意識障害や昏睡
これらの症状が見られたら、一刻も早く動物病院へ 受診する必要があります。
原因
糖尿病性ケトアシドーシスは、次のような要因で起こることが多いです。
• 糖尿病が未治療またはコントロール不良
• インスリン投与の中断・不足
• 感染症(膀胱炎、子宮蓄膿症、歯周病など)
• 急性膵炎や心疾患などの併発疾患
• ストレスや手術などによる体調変化
つまり、糖尿病を抱える犬にとって「体に負担がかかる出来事」が引き金となりやすいのです。
診断
動物病院では以下の検査を行い、診断を確定します。
• 血液検査:高血糖、代謝性アシドーシスの確認
• 尿検査:尿中ケトン体の検出
• 電解質検査:ナトリウム、カリウムなどのバランス異常
• 血液ガス分析:酸塩基平衡の評価
治療
糖尿病性ケトアシドーシスは緊急疾患であり、入院治療が必要です。治療の柱は次の3つです。
1. 輸液療法
脱水と電解質異常を補正します。カリウム低下などの合併に注意が必要です。
2. インスリン投与
少量ずつ静脈内または皮下に投与し、血糖値を徐々に下げます。急激な血糖変化は危険なため、慎重な管理が必要です。
3. 原因疾患の治療
感染症であれば抗生物質、膵炎なら支持療法など、引き金となった病気の治療も並行して行います。
治療には数日を要することも多く、回復後も糖尿病の管理を継続していく必要があります。
予防と飼い主さんができること
• 獣医師の指導に従って、インスリンを正しく投与する
• 定期的に血糖値や尿糖・尿ケトン体をチェックする
• 食事管理を徹底し、肥満を防ぐ
• 感染症や体調変化にいち早く気づく
• ちょっとでも体調に問題を感じたら直ちに動物病院を受診する
特に「インスリンの打ち忘れ」や「自己判断で中止すること」は絶対に避けましょう。
まとめ
犬の糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病の重大な合併症であり、放置すれば命に関わります。
「急な元気消失」「嘔吐」「甘酸っぱい口臭」などが見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
早期発見・治療と、日常の糖尿病管理が、愛犬の命を守る鍵となります。
当院で使用している、糖尿病性ケトアシドーシスに対応するためのインスリン製剤です。インスリンはその子その子の状況に合わせて使い分ける必要があります。