症例紹介

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の症状と原因、治療について|獣医師が解説

内分泌科 症例紹介

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の症状と原因、治療について|獣医師が解説

福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
わんちゃんが調子を崩すと、飼い主さんとしてとても心配になりますよね。今回は、わんちゃんのクッシング症候群の症状と原因、当院での治療についてお話しさせていただきます。
犬が元気で健康な生活を送るためには、定期的な健康診断が欠かせません。その中でも、犬の副腎皮質機能亢進症、通称「クッシング症候群」は、比較的一般的な疾患であり、早期発見と適切な治療が重要です。この記事では、クッシング症候群の症状、原因、そして治療方法について詳しく解説します。

【クッシング症候群とは何ですか?】

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、犬の副腎皮質が過剰に活動し、過度にコルチゾールと呼ばれる内分泌ホルモンを産生する疾患です。このホルモンは体内のさまざまな機能に影響を与え、その過剰な分泌は犬の健康に悪影響を及ぼします。

【副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の主な症状】

クッシング症候群は、さまざまな症状を引き起こす可能性がありますが、以下は最も一般的なものです。
1.    多飲・多尿(PD/PU): 犬が異常に多くの水を飲み、それに伴って頻繁に排尿することがあります。
2.    食欲亢進: 犬が異常に食欲が増し、体重増加が見られることがあります。
3.    腹部膨張: 腹部が膨れ、お腹が大きくなることがあります。
4.    筋肉の萎縮: 筋肉が減少し、犬が体力を失うことがあります。
5.    皮膚トラブル: 皮膚が薄くなり、かゆみや炎症が生じることがあります。時に石灰化という症状を引き起こし、皮膚に固い結節やびらん(皮膚の欠損)を引き起こします。
6.   心臓、肺、肝臓、腎臓、脳に影響: 高コルチゾール血症が続くことで多くの臓器に長期にわたり影響を与え、それが悪化することで重症化します。

【副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の原因】

クッシング症候群の主な原因は、以下の3つです。
1.    腫瘍: 腫瘍が副腎皮質で過剰なコルチゾールを産生することがあります。これを「腫瘍性クッシング」と呼びます。
2.    副腎皮質過形成: 副腎皮質が異常に肥大化し、コルチゾールを過剰に産生することがあります。これを「副腎皮質過形成性クッシング」と呼びます。
3.    脳下垂体の問題: 脳下垂体がコルチゾールの分泌を過度に刺激することがあります。これを「脳下垂体性クッシング」と呼びます。

【副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の治療】

クッシング症候群の治療は、その原因によって異なります。腫瘍性クッシングの場合は手術が必要なことがあります。一方、副腎皮質過形成性クッシングや脳下垂体性クッシングでは、薬物療法が一般的に使用されます。
獣医師との協力が重要であり、診断と治療プランの立案は専門家に任せるべきです。また、定期的なフォローアップと検査が必要です。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は進行性の病気であるため、早期発見と治療が非常に重要です。また、長期にわたり様々な臓器に影響を与え、気がついた時には心臓や肺、腎臓などに取り返しのつかない障害を与えてしまいます。
初期に現れる症状は水をいっぱい飲み、おしっこをいっぱいする様になり、お腹だけぽっこりする様な太り方をします。当院ではA C T H刺激試験によって診断し、早期から治療を行うことで、多臓器にわたる影響を事前に抑え、寿命まで元気に生活できるワンちゃんが増えてきています。すでに心臓や肺に合併症がある子も普通の生活を営める様になる子が多いです。
以前は“太るだけの病気”と考えられていましたが、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の治療を行うことで、おじいちゃんおばあちゃんになっても元気なワンちゃんが本当に増えた印象です。当院では、飼主様の希望に応じて適切に診断し治療することを大切にしていますのでワンちゃんに気になる症状が出ている場合はお気軽にお問い合わせください。


次郎丸動物病院へのご予約・お問い合わせ

【電話受付】 9:30〜12:30/16:00〜18:30(診察終了30分前まで) 【休診】火曜・祝日・金曜午後

この子は非典型的な副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の事例です。アレルギーや感染性の皮膚炎として長い間治療してきたが治らないとの主訴で来院されました。来院時は身体中が痛くて、気が立っていて、痛々しい状態でした。


皮膚の清潔度を保つ目的で毛を短く刈ると、全身性に結節(かさぶたのように盛り上がった皮膚湿疹)とびらん(皮膚の欠損部)とそれに伴う脱毛が認められました。また、全身的に薄っぺらい皮膚の感じがありました。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)に見られる皮膚の菲薄化と皮膚の石灰化がかなり増悪した様な病態だったため、ACTH刺激試験と腹部エコーを実施すると、副腎皮質機能亢進症(下垂体性)からくる高コルチゾール血症が疑われたため、内服薬による治療を開始しました。


治療から6ヶ月後の状態です。皮膚の石灰化からきていた結節とびらんは認めなくなりました。現在は傷の瘢痕収縮による無毛の部分が少しありますが、全身に健康的な柔らかな毛の発毛を認めるまでになりました。現在は痛みもなく、いつもご機嫌で来院されます。この事例では、食生活の見直し(ドックフードだけで飼育すること)は行いましたが、抗生物質や抗真菌剤などの内服薬やアレルギーのかゆみを抑える抗炎症剤の内服薬はいっさい使用していません。治りにくい皮膚疾患を抱えているわんちゃんは、副腎皮質機能亢進症の基礎疾患が関係しているのかもしれません。