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犬の肺炎の症状と原因、治療について|獣医師が解説 NEW

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犬の肺炎の症状と原因、治療について|獣医師が解説

福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
肺炎は犬にとって命にかかわることもある呼吸器疾患の一つです。早期発見と適切な治療が回復の鍵を握ります。今回は、獣医師の視点から「犬の肺炎」の症状・原因・治療法についてわかりやすく解説します。

肺炎とは?

肺炎とは、肺に炎症が起こり、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなる状態を指します。肺胞内に細菌やウイルス、異物が侵入することで炎症が起こり、呼吸困難や発熱などの症状を引き起こします。

主な症状

犬が肺炎を起こしたときには、以下のような症状が見られます。
•    咳(乾いた咳、湿った咳どちらもあり得ます)
•    呼吸が早くなる、苦しそうな呼吸
•    発熱(39.5℃以上、まれに発熱を伴わないことも)
•    食欲不振、元気消失
•    鼻水、くしゃみ
•    チアノーゼ(舌や歯茎が紫色に)
•    体重減少(慢性化した場合)
※高齢犬や子犬では、症状が急速に悪化することがありますので注意が必要です。

肺炎の主な原因

肺炎にはさまざまな原因がありますが、以下のような分類ができます。
1. 感染性肺炎(細菌・ウイルス・真菌など)
•    細菌性肺炎:もっとも一般的。パスツレラ属菌、大腸菌、ブドウ球菌などが関与。
•    ウイルス性肺炎:犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルスなど。
•    真菌性肺炎:アスペルギルス症やヒストプラズマ症など、免疫低下時に発症しやすい。
2. 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
•    誤って胃内容物や食物、水などが気管に入ることで生じる肺炎。
•    麻酔後や食道疾患のある犬に多く見られます。
3. 吸引性・異物性肺炎
•    草の種、食べ物、吐物などが肺に入り、炎症を起こすケース。
4. アレルギー性肺炎、免疫異常による肺疾患
•    比較的まれですが、アレルギーや自己免疫性疾患の一部として発症することもあります。

診断方法

動物病院では、以下のような手順で診断が行われます。
1.    聴診:呼吸音の異常を確認
2.    胸部レントゲン検査:肺の陰影や浸潤影をチェック
3.    血液検査:炎症マーカー(白血球数など)の確認
4.    喀痰培養:病原菌の特定(可能であれば)
5.    超音波検査・CT検査:より詳細な画像診断(重症例)

治療法

肺炎の治療は、原因に応じた適切な対症・原因療法が重要です。
1. 薬物治療
•    抗生物質:細菌性肺炎には第一選択(培養に基づいて変更されることも)
•    去痰薬、気管支拡張薬:呼吸を楽にするため
•    消炎剤:過剰な炎症を抑制する
•    抗ウイルス薬・抗真菌薬:ウイルス性・真菌性肺炎に応じて使用
2. 酸素療法
•    呼吸困難のある犬には酸素室や酸素マスクを使用します。
3. 点滴治療
•    水分補給と電解質バランスの是正のために静脈点滴を行います。
4. 吸入療法
•    吸入薬を使って直接肺に薬剤を届ける治療法(動物用にも対応可能)
5. 誤嚥防止対策
•    食餌の形状変更、食後の体位保持などで再発防止を図ります。

予後とケア

肺炎は早期に適切な治療を行えば回復可能ですが、重症化すると呼吸不全に至ることもあります。
また、子犬・老犬・免疫力の低い犬では重篤化しやすいため注意が必要です。治療後も、一定期間の安静や定期的な通院でのフォローが望まれます。

飼い主としてできること

•    咳や呼吸異常が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。
•    ワクチン接種をしっかり行い、感染症の予防を徹底しましょう。
•    誤嚥しやすい高齢犬や疾患のある犬には、食事や投薬時の体位や環境に注意を払いましょう。

まとめ

犬の肺炎は、適切な対応をすれば回復可能な病気です。しかし見逃すと命に関わるリスクもあるため、飼い主の早期発見と動物病院での診断・治療が非常に重要です。咳や呼吸の変化に気づいたら、早めに受診することをおすすめします。


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この写真は若いトイプードルの胸部レントゲン画像です。咳を主訴に来院されました。
横からのレントゲンでは肺の葉間裂の陰影が認められ少量の胸水がある可能性がある所見があります(赤矢印のライン)。また、緑矢印のところに黒く描出された気管支が認められ、肺胞内にも少量の液体がある可能性を示唆しています(エアーブロンコグラムと言います)。そして黄色の丸内に普通認められる後大静脈と大動脈の陰影を認めにくくなっています。いずれも肺が普通よりも液体成分が増加した、いわゆる炎症や肺水腫で認められる所見です。
正面からのレントゲンでは左肺に白い影が認められ(黄色の丸)、年齢と臨床症状から肺炎が疑われたため、抗生物質と気管支拡張剤と吸入薬で治療を開始しました。



治療を始めて1ヶ月後のレントゲン写真です。本人の症状はすっかり良くなりました。横からのレントゲンでは黄色丸で示した領域に後大静脈と大動脈の陰影がはっきり確認できる様になり(黄色矢印)、肺の液体成分の量が正常になったことを示しています。正面からのレントゲンでは左肺にあった白い影がなくなっています。早期発見早期治療に持ち込めれば完治も可能ですので、気になる呼吸器症状があるときは早めに動物病院を受診ください。