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猫のひも状の消化管異物の症状と原因、治療について|獣医師が解説

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猫のひも状の消化管異物の症状と原因、治療について|獣医師が解説

福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫が誤ってひも状の物を飲み込んでしまうと、消化管に深刻なトラブルを引き起こすことがあります。これをひも状の消化管異物(線状異物、ひも状異物)と呼びます。この問題は命に関わる場合もあり、早期の対応が重要です。本記事では、ひも状異物の症状、原因、治療法、そして予防策について詳しく解説します。

ひも状異物とは?

線状異物とは、ひもやリボン、毛糸、ミシン糸、ビニールテープなどの細長い物が猫の消化管に詰まることで発生する状態を指します。これらの異物が胃や腸に絡まると、消化管が収縮して動きが妨げられるほか、腸がねじれたり裂けたりする危険性があります。特に、好奇心旺盛な猫や遊び好きな若い猫に多く見られる問題です。

ひも状異物の原因

猫が線状異物を飲み込んでしまう原因には以下のような要因があります:
1.    遊びの延長で誤飲
猫はひも状の物に興味を示しやすく、噛んでいるうちに誤って飲み込んでしまうことがあります。
・ 毛糸、ひも、リボン
・ミシン糸やナイロン糸(特に釣り針がついた釣り糸は危険です)
2.    食欲の誤作動
猫は遊んでいるだけでなく、好奇心から食べ物でない物を飲み込むことがあります。
例:クリスマスの飾りや包装リボン
3.    環境要因
家庭内に片付けられていない細長い物(釣竿様のものに紐がついたおもちゃ)が猫の手(または口)に届く場所にあると、リスクが高まります。

ひも状異物の症状

ひも状の異物が猫の消化管に入ると、以下のような症状が現れることがあります。
●初期症状
•    頻繁な吐き気や嘔吐
胃に異物がある場合、食べ物や液体を受け付けず吐き戻します。
•    食欲不振
ご飯を食べたがらない、または食べてもすぐ吐く。
•    元気の低下
動きたがらず、じっとしていることが多くなります。
●進行期の症状
•    お腹の痛み
お腹を触ると痛がり、怒ることがあります。
•    便秘や下痢
消化管が閉塞している場合、排便が困難になることがあります。
•    血便
異物が腸を傷つけて出血することがあります。
•    体重減少
栄養が吸収されず痩せてきます。
●緊急症状
•    ショック状態
異物による腸の裂け目から細菌が腹腔内に漏れ、重篤な腹膜炎を引き起こします。
•    脱水
吐き気や食欲不振が続くことで体が脱水状態に陥ります。
これらの症状が見られた場合、すぐに動物病院を受診してください。

診断方法

動物病院では、以下の手順で線状異物の有無を診断します:
1.    触診
お腹を触って、異常な腫れや痛みを確認します。
2.    X線検査
異物が金属製や硬いものであれば画像で確認できます。ただし、ひも状の物は映りにくい場合があります。
3.    超音波検査
X線で確認できない異物の位置や腸の状態を把握します。
4.    内視鏡検査
胃や食道にある異物を直接確認します。

ひも状異物の治療法

治療法は、異物の種類や位置、猫の体調によって異なります。以下が主な治療方法です:
1. 内視鏡での異物除去
異物が胃や食道に留まっている場合、内視鏡を使用して異物を摘出します。全身麻酔下での処置が必要ですが、手術せずに処置できる場合があります。
2. 外科手術(開腹手術)
異物が腸に詰まっている場合や、腸を傷つけている場合は手術が必要です。手術では次のような処置が行われます:
•    異物の摘出
•    損傷した腸の修復または切除
3. 症状緩和のサポート治療
手術後や状態が安定するまで、以下の治療が行われます:
•    点滴による水分補給と栄養補給
•    抗生物質による感染症予防
•    鎮痛剤の使用

予後と注意点

早期に治療を受けた場合、多くの猫は完全に回復します。しかし、腸が損傷していたり腹膜炎を起こしていた場合、亡くなることがあったり、回復までに時間がかかることがあります。
また、異物を再び飲み込む可能性があるため、飼い主の注意が必要です。

ひも状異物の予防策

猫が線状異物を誤飲しないように、以下のポイントに注意してください。
1. 家庭内の管理
•    ひも、毛糸、リボン、ミシン糸などは猫の手の届かない場所に片付ける。
•    プレゼントや装飾品は遊びに使用しない。
2. 安全なおもちゃを選ぶ
•    誤飲しにくい、安全設計のおもちゃを与える。
•    おもちゃが壊れていないか定期的に確認する。
3. しつけと見守り
•    遊び中は猫を観察し、異物を噛んでいる様子があればすぐに取り上げる。
•    興味をひもから別の遊びに逸らす。

まとめ

猫の線状異物は命に関わる危険性がありますが、適切な管理と予防策を講じることでリスクを大幅に軽減できます。愛猫がひも状の物を飲み込む可能性がある場合、早めの対応が重要です。
もし猫に以下の症状が見られる場合、すぐに動物病院を受診してください:
•    繰り返す嘔吐
•    食欲不振
•    お腹の痛みや血便
大切な愛猫の健康を守るため、日々の環境管理を徹底しましょう。


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ミシン糸で遊んでいた後から吐き始めて腹部エコーでひも状異物が腸にあることが疑われた若い猫ちゃんです。全身麻酔下で口腔内を精査したところ、舌の付け根にミシン糸が絡みついていることが確認されました。引っ張って取ることができないため、内視鏡で胃から十二指腸までを確認します。



内視鏡で確認すると、食道内から(上の写真の赤矢印)胃の出口の幽門まで(下の写真の赤矢印)白い糸が入り込んでいて、引っ張っても抜けません。このようになると、無理に引っ張ると胃腸を切り裂いてしまうため、手術によってひも状異物を摘出する必要があります。


手術の様子です。開腹手術で腸がアコーデオン状によじれている中にひもの異物があることが確認されたため、腸を切開し小腸内のひも状異物を部分的に摘出すると、口から出ていたミシン糸がリリースされ、口からひも状異物を全部摘出することができました(赤い矢印)。術後の回復も順調でした。
今回のように、ひも状異物の誤食の場合、ひもがどこかで引っかかった場合、手術などの積極的な対応が必要になることがあります。一番危険なのはテグスのついた釣り糸です、釣り糸がどこかで引っ掛かると、糸だけ腸が先に進めようとするので今回のようなことが生じてしまい、なおかつテグスが丈夫で細いので、すぐに腸を切り裂いてしまいます。引っかかった針もたいてい返しがついているため、引き抜くことが難しく、これが食道で起こった場合、食道の粘膜に穴が空いて、緊急性の気胸が生じてしまうと助からないことがあります。また、猫用の、ひもの先にネズミなどのおもちゃがついた遊び道具も、胃の出口の幽門で引っかかり、今回と同じような病態が発生することがあり、紐のついたおもちゃは遊んだ後に必ず片付けておくことが大事です。
とにかく異物を飲み込んだ場合、問題が発生すると必ず継続的な吐き戻しが起こりますので、そのような症状を発見したときはすぐに動物病院を受診するようにしてください。