犬の消化管内異物・胃腸閉塞の症状と原因、治療とその予防について|獣医師が解説
消化器科 一般診療科 症例紹介犬の消化管内異物・胃腸閉塞の症状と原因、治療とその予防について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
犬は本来、好奇心旺盛な動物です。特に若い犬や口に入れる癖のある犬では、おもちゃや布、石、さらには飼い主の持ち物まで誤って飲み込んでしまうことがあります。こうした「消化管内異物」は、ときに命にかかわる「胃腸閉塞(腸閉塞)」を引き起こすことがあるため、早期発見・早期治療が重要です。また、腸にできた腫瘍や腹膜炎による癒着や腸重積などによって腸閉塞が生じることがあります。
本記事では、獣医師の立場から、消化管内異物・胃腸閉塞の症状・原因・治療法・予防策について詳しく解説いたします。
消化管内異物・胃腸閉塞とは?
「消化管内異物」とは、犬の胃や腸に本来存在しない異物が存在する状態を指します。それが通過できずに詰まってしまった状態が「胃腸閉塞」です。
異物は胃で止まる場合もあれば、小腸や大腸に進んで閉塞を引き起こすこともあります。放置すると、腸が壊死したり、穿孔して腹膜炎を起こしたりする可能性があります。
主な原因
犬の消化管内異物の原因は以下のようなものがあります。
誤食しやすい異物の例:
• おもちゃ(ゴム、プラスチックなど)
• 靴下やタオルなどの布製品
• 骨(特に加熱したもの)
• 石、砂利
• ビニール袋やラップ
• 果物の種(桃・柿・アボカドなど)
• 釘や爪楊枝などの尖った物(特に危険)
行動的要因:
• 分離不安や退屈による異常行動
• 子犬期の探索行動
• 食べ物の匂いがついた衣類や物品への執着
お腹の中の問題
・腫瘍や癒着、腸重積による腸閉塞
症状
異物の大きさや位置により症状の強さは異なりますが、典型的な症状は以下のとおりです。
主な症状:
• 嘔吐(繰り返し吐く、内容物が変化する)
• 食欲不振または完全拒食
• 腹痛(触ると怒る、丸くうずくまる)
• 排便異常(便が出ない、血便、粘液便)
• 元気消失・ぐったりする
• 腹部膨満
特に嘔吐が続いているのに排便がない場合は、腸閉塞の可能性が高いため、すぐに受診が必要です。
診断
以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
• 触診:お腹の張りや痛みを確認
• X線検査:異物の確認(ただし布やプラスチックは写らないことも)
• 腹部超音波検査:液体貯留や腸の動き、異物の有無の確認
• 造影検査:消化管造影剤で閉塞の位置を特定
• 内視鏡検査:胃内異物が対象の場合に有効
治療法
異物の種類や大きさ、滞在部位によって治療方法が異なります。
1. 催吐による摘出
• 対象:胃の中にある比較的小さな異物の場合、薬を用いた催吐によって排出されるか試みます。
• 特徴:無麻酔で行うことができるため、身体への負担が少ないが吐出できないことがある。
2. 内視鏡による摘出
• 対象:胃の中にある比較的小さな異物
• 特徴:開腹せずに済むため身体への負担が少ない
3. 開腹手術
• 対象:小腸・大腸に進んだ異物、穿孔リスクのある場合
• 特徴:閉塞解除、腸管の壊死部分の切除・縫合が可能
4. 保存療法(ごく軽症例)
• 小さくて自然排出が見込める異物に対して経過観察
• 通過を促す食事療法や点滴を行うこともあるが、慎重な判断が必要
予後
早期発見・早期治療で適切に処置できればあれば、ほとんどの犬は回復します。ただし、腸壊死や穿孔、腹膜炎を起こした場合や元々持病を持っていて開腹手術や内視鏡の処置に危険性がある場合などのケースでは、命に関わることもあり、救命できたとしても回復までに時間がかかったり、後遺症が残ることもあります。
予防方法
1. 誤食の原因を取り除く
• おもちゃや布製品はサイズ・素材を選び、壊れたら即処分
• 石や骨などの食べ物は与えない
• ゴミ箱は蓋付き、使用済みのティッシュや生ごみはすぐ処分
• 適切な食生活や適度な運動により、慢性的な胃腸疾患が起こらない様に飼育する。慢性的な胃腸障害が生じる様な飼育環境の場合、犬は日常的に胃腸のムカつきを感じており、草や異物などを飲み込んで、意図的に吐こうとします。よって、食生活などの飼育環境の適正化によって、異物誤食の頻度を下げることができます。
2. 留守番環境を整える
• ケージやサークルを活用して管理
• 長時間の留守番時には誤食しにくい環境を作る
3. ストレス対策・運動不足の解消
• 散歩や遊びの時間を十分にとる
• 知育トイを活用して精神的にも満たす
まとめ
犬の消化管内異物や胃腸閉塞は、決して珍しい病気ではありません。多くのケースは「ちょっと目を離したすき」に起こっています。症状が軽く見えても、数時間で急変することがあるため、「おかしいな?」と思ったらすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
飼い主として最も大切なのは、日頃からの誤食予防と、異変への早期気付きです。愛犬の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。
この画像は丸い白い異物を飲み込んだフレンチブルドックの内視鏡画像です。催吐処置を行なっても吐出できなかったため、内視鏡での摘出を試みました。胃の中で白い物体を内視鏡の把持鉗子で掴んでいるところです。
内視鏡処置で無事摘出できたため、開腹手術をしないで済みました。水回りの何かの部品だった様です。直径3cm程度の丸い薄いものだったため、飲み込めたけれども、吐出はできなかった様です。放置すれば、腸で詰まっていた可能性があります。
小腸内の閉塞異物は腸切開手術で取り出すことがあります。チワワの若いこで嘔吐が続く事例でしたが、腹部エコー検査で腸内異物による腸閉塞が疑われたため、手術で取り出しています。殻付きの銀杏かピスタチオと考えられる異物でした。1cm程度の種子など異物は消化されず、小腸で閉塞することが多く大変危険です。他に桃の種、梅干しの種などが腸閉塞をよく起こします。
高齢のミニチュアダックスの腸閉塞事例です。小腸に腫瘍が出来ていて腸の通過を塞いでいました。腸の端端吻合術により回復して、今は元気にしています。腸の腫瘍はリンパ腫や腺癌などが生じることがあり、腫瘍に応じては再発することがありますので、術後の病理検査によって正確な診断を行うことが大切になってきます。