猫の嘔吐、吐き戻し、吐き気の症状と原因、治療について｜獣医師が解説

福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫が吐く姿を見ると、飼い主としてとても心配になります。
しかし、猫はもともと嘔吐しやすい動物で、「健康な猫がたまに吐く」のは珍しいことではありません。
一方で、病気によって吐いている場合も多く、早期に見つけることで重症化を防げるケースも多くあります。
ここでは、猫の「嘔吐」「吐き戻し」「吐き気」の違いと、考えられる原因、家庭での注意点、治療について獣医師の視点からわかりやすく解説します。

嘔吐・吐き戻し・吐き気の違いとは？

まず知っておきたいのは、「猫が吐く」状態には複数のパターンがあることです。
嘔吐は、胃や腸の内容物を腹筋で押し出すようにして吐き出す現象で、吐く前に「うーっ」という前兆の動作があります。黄色や泡状の液が混ざることも多く、胆汁が逆流している場合もあります。
吐き戻しは、食べたフードが消化される前に口から戻ることを指します。粒が原形のまま出てきたり、食後すぐに吐く場合はこちらが疑われます。早食いや食道の問題が原因で起きることが多いです。
吐き気（悪心）は、必ずしも吐くとは限りません。よだれを垂らしたり、落ち着かずウロウロしたり、ご飯の匂いを嗅ぐのに食べないときは「吐きたいけど吐けない状態」になっていることがあります。

生理的な嘔吐と軽度な原因

必ずしも病気ではなく、生活上の要因で吐くこともあります。
・毛玉を吐き出すとき
・空腹時間が長すぎて胃酸がこみ上げたとき
・急いで食べたとき
・フードを急に変えたとき
・ご褒美のおやつを食べすぎたとき
毛玉などによる嘔吐は、食欲や元気があれば様子を見ることも可能です。
ただし、高齢の猫では生理的嘔吐と見分けにくい病気が潜むことがあるため注意が必要です。

病気が原因の嘔吐に注意

嘔吐の裏に重大な病気が隠れていることもあります。たとえば、
・胃腸炎（ウイルス・細菌・食物アレルギーなど）
・異物誤食（ひも、輪ゴム、ビニール、おもちゃなど）
・慢性腎臓病
・膵炎
・肝臓病
・甲状腺機能亢進症
・糖尿病
・胃や腸の腫瘍
これらの場合、嘔吐の頻度が増えたり、食欲不振、体重減少、元気がないなどの症状を伴うことが多いです。
特に10歳以上の猫の慢性腎臓病は非常に多く、嘔吐と食欲不振だけが初期症状のこともあります。

すぐ動物病院へ行くべきサイン

次のような場合は、様子見せず受診してください。
・1日に何度も吐く
・血が混じる
・水も飲めない
・排便がない、腹部が張っている
・ぐったりしている
・高齢猫の持続的な嘔吐
・異物を飲み込んだ可能性があるとき
「今まで吐いたあとに元気だったのに、今回は違う」という飼い主さんの感覚は、実はとても重要です。

動物病院で行う検査

診察では触診や聴診のほか、必要に応じて血液検査、レントゲン撮影、腹部エコー検査などを行います。血液検査では腎臓や肝臓の数値、脱水の程度や電解質バランスを調べます。
腸閉塞や異物が疑われる場合はレントゲンが必要です。膵炎など内臓疾患が疑われるときはエコー検査が有効で、腸の動きや膵臓の状態を確認します。

治療の流れ

治療は原因によって異なりますが、基本的には次の二つに分かれます。
●対症療法
・吐き気止めの注射や内服
・胃粘膜保護剤
・点滴（脱水改善、電解質調整）
・消化に優しい療法食
これらは原因が判明するまで猫の体力を守るために行います。
●原因治療
・異物 → 内視鏡または手術で除去
・腎臓病 → 点滴、食事療法、投薬
・膵炎 → 絶食＋点滴＋疼痛管理
・食物アレルギー → 除去食試験
・感染症 → 抗生剤、整腸剤など

家庭でできる予防と対策

●毛玉対策
ブラッシングなどで対応
●フード変更はゆっくり
7〜10日かけて少しずつ混ぜて移行する
●異物管理
ひも、ゴム、ビニール袋、輪ゴム、観葉植物を放置しない
●健康診断
7歳以上の猫は年2回の血液検査が安心

まとめ

猫が吐くこと自体は珍しくありませんが、「いつもと違う嘔吐」は病気のサインかもしれません。
頻度、内容物、元気や食欲の有無を注意深く観察し、気になることがあれば早めに動物病院へ相談しましょう。
「嘔吐は猫だから仕方ない」と考えず、日常のちょっとした変化に気づくことが、愛猫を守る一番の近道です。

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この写真は嘔吐が続いて食欲がなくなった猫の胃の内視鏡時の写真です。処置前に腹部エコー検査をしたところ、胃の中に何か異物らしい陰影と胃の中の液体貯留所見が認められたため、内視鏡による胃内異物摘出の処置を全身麻酔下で行いました。胃内にウレタンマットの破片と思われる異物があったため、鉗子を用いて摘出を行いました。この子は大腸内にも固い糞便が停滞していそうだったため、内視鏡の処置後浣腸を実施し、摘便処置を行いました。

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出てきた便の中にビニールの異物や小さいウレタンマットの破片も出てきました。処置後猫の嘔吐はなくなり、症状は改善しました。猫は、ヒモ状の異物やビニール性の異物、ウレタンマットなどの異物を好んで飲み込むことが多く、一度異物誤飲をした子は何度も行う傾向があります。このようなものを猫の生活圏から除外することが必要になるので、ご注意ください。