犬の催吐処置が必要な状況の原因と点眼式催吐薬について|獣医師が解説 NEW
消化器科 一般診療科 症例紹介犬の催吐処置が必要な状況の原因と点眼式催吐薬について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
犬は好奇心が強く、食べ物だけでなく、おもちゃや薬、日用品などを誤って飲み込んでしまうことがあります。
「少し目を離した間にチョコレートを食べてしまった」「薬を落としたら犬が飲み込んでしまった」「おもちゃの一部がなくなっている」といった誤食・誤飲は、動物病院でも比較的よく遭遇するトラブルです。
このような場合、飲み込んだものや経過時間、犬の状態によっては、薬を使って意図的に吐かせる「催吐処置」を行うことがあります。
近年では、犬の目に点眼することで嘔吐を誘発する犬用催吐点眼剤も使用できるようになっています。
今回は、犬で催吐処置が必要になる状況や、吐かせてはいけないケース、点眼式催吐薬について獣医師が解説します。
犬の催吐処置とは?
催吐処置とは、薬剤によって犬に嘔吐を起こさせ、胃の中にある異物や有害物質を体外へ排出させる処置です。
犬が危険なものを飲み込んだ場合でも、それがまだ胃の中に残っていれば、早い段階で吐かせることで体内への吸収や腸への移動を防げる可能性があります。
特に中毒を起こす物質では、体内に吸収される前の対応が重要になります。
ただし、誤食したら何でも吐かせればよいわけではありません。
飲み込んだものによっては、吐かせることで食道などを傷つけたり、吐物を誤嚥したりして、かえって状態を悪化させることがあります。
そのため、催吐処置を行うかどうかは獣医師が判断します。
犬で催吐処置を検討する主な原因
催吐処置が検討される代表的な原因は「誤食・誤飲」です。
チョコレート、人間用の薬、タマネギやネギ類を含む食べ物、ブドウ・レーズン、キシリトールガムなどの中毒を起こす物質
おもちゃや布、ビニールなどの異物
などは催吐処置が検討される典型的な原因です。
誤食しても吐かせてはいけないものがあります
催吐処置で非常に重要なのが、「何を飲み込んだのか」という点です。
例えば、針、串、釣り針、鋭利な骨片などを飲み込んだ場合、吐かせることで食道や咽頭を傷つける危険があります。
また、強酸・強アルカリなどの腐食性物質では、吐かせることによって食道が再び化学的な損傷を受ける可能性があります。
ガソリン、灯油、有機溶剤などの揮発性物質も、嘔吐した際に気管へ入り、誤嚥性肺炎などを起こす危険があるため、一般に催吐には適しません。
犬の意識状態が悪い場合や、けいれんしている場合、正常に飲み込むことができない場合なども、吐物を誤嚥する危険性が高いため催吐処置ができないことがあります。
犬には点眼するタイプの催吐薬があります
犬の催吐処置にはいくつかの方法がありますが、現在は**ロピニロールを有効成分とする犬用催吐点眼剤「クレボル」**が国内で承認されています。
クレボルは2024年に日本で承認された動物用医薬品で、効能・効果は「犬:嘔吐誘発」です。劇薬、指定医薬品、要指示医薬品に指定されています。
これまでの催吐処置では注射などを使用する方法もありましたが、クレボルは名前の通り目に薬液を点眼して嘔吐を誘発するという特徴があります。
点眼しただけで、なぜ犬が吐くのでしょうか?
クレボルの有効成分であるロピニロールは、ドパミンD2受容体作動薬です。
点眼されたロピニロールが吸収され、脳の第四脳室底部にある「化学受容器引金帯(CTZ)」のドパミンD2受容体を刺激します。
その刺激が嘔吐中枢へ伝わることで、犬に嘔吐が起こります。
つまり、目を刺激して吐かせているわけではありません。
点眼した薬剤が吸収され、嘔吐に関係する神経系へ作用することによって嘔吐を誘発します。
ただし、催吐薬を使用しても必ず異物や有害物質をすべて吐き出せるとは限りません。
点眼式催吐薬にも副作用はあります
点眼薬だから副作用がないというわけではありません。
ロピニロールでは、嘔吐以外にも元気消失、震え、心拍数の増加、血圧低下などがみられることがあります。
また、点眼部位に関連して、結膜の充血、まばたきの増加、眼瞼けいれん、眼脂、眼の腫れなどがみられることがあります。海外の安全性情報では角膜潰瘍も報告されています。
そのため、当院では留置針で血管を確保した状態で、副作用が生じた時に早急に対応できるようにして使用します。また使用後に生理食塩水で眼の洗浄を十分に行うようにしています。
クレボルは日本でも要指示医薬品であり、催吐させてよい状況なのかを獣医師が判断したうえで使用する薬です。
誤食したときに飼い主さんに確認してほしいこと
動物病院へ連絡する際には、できるだけ次の情報を確認してください。
• 何を食べたのか
• どのくらい食べたのか
• いつ食べたのか
• 犬の体重
• 現在の様子
• 嘔吐やけいれんなどの症状があるか
• 食べた商品のパッケージや成分表示が残っているか
薬や食品、洗剤などの場合は、商品そのものやパッケージ、写真などを持参すると診断の助けになります。
「何を」「どれくらい」「何分前に」という情報は、その後の治療方針を決めるうえで非常に重要です。
まとめ
犬の催吐処置は、チョコレート、薬、キシリトール、ブドウ・レーズンなどの有害物質や、消化管閉塞を起こす可能性のある異物を誤食した際に検討される処置です。
一方で、鋭利な異物、腐食性物質、ガソリンや灯油など、吐かせることでかえって危険になるものもあります。
現在では、ロピニロールを有効成分とする犬用催吐点眼剤「クレボル」が国内で承認されており、注射ではなく点眼によって嘔吐を誘発できるようになりました。
ただし、最も重要なのは「吐かせること」ではなく、その犬、その誤食物、その状況で吐かせることが安全なのかを判断することです。
犬が何かを誤食した場合には、家庭で無理に吐かせず、食べたものや量、時間を確認して、できるだけ早く動物病院へ相談してください。
異物を飲み込んんだということで、クレボルという点眼催吐剤を使用することで緑色の異物を安全に吐いてくれたため、大事にはいたりませんでした。
