猫の皮膚腫瘍の症状と原因、治療について|獣医師が解説
腫瘍科 症例紹介猫の皮膚腫瘍の症状と原因、治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫の皮膚に「しこり」や「できもの」を見つけると、多くの飼い主さんは驚き、不安になるものです。その正体は良性の場合もあれば、悪性腫瘍(がん)の場合もあり、早めの受診と診断がとても大切です。ここでは、猫の皮膚腫瘍について症状や原因、治療法を獣医師の立場から解説します。
皮膚腫瘍の症状
猫の皮膚腫瘍は見た目や触り心地にさまざまな特徴があります。
• 皮膚にコリコリしたしこりがある
• しこりの大きさが徐々に大きくなる
• 表面がただれて出血したり膿が出たりする
• 毛が抜けて脱毛斑として見える
• 猫が痒がったり舐め続けたりする
• 複数のしこりが体のあちこちに出る
腫瘍が大きくなると生活の質を落とし、転移性の悪性腫瘍の場合は全身に広がる危険があります。
皮膚腫瘍の原因
皮膚腫瘍の原因は一つではありませんが、以下のような要因が考えられます。
1. 遺伝的要因
猫の品種や遺伝的体質によって腫瘍ができやすいケースがあります。
2. 加齢
高齢猫では細胞の分裂や修復に異常が起こりやすく、腫瘍が発生しやすくなります。
3. 紫外線
白毛や被毛の薄い部位(耳・鼻)では、紫外線の影響で扁平上皮癌などが発生することがあります。
4. ウイルス感染
猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)が腫瘍の発生に関与することがあります。
よく見られる猫の皮膚腫瘍
• 肥満細胞腫:猫で多い腫瘍。赤く腫れて痒みを伴うこともあります。
• 扁平上皮癌:日光に当たりやすい耳や鼻先にできやすく、進行すると潰瘍化します。
• 線維肉腫:ワクチン接種部位などにできることもあり、局所で再発しやすい腫瘍です。
• 皮脂腺腫や良性のしこり:悪性ではなく、経過観察で済むこともあります。
診断方法
動物病院では、以下のような方法で診断します。
• 細胞診(針吸引検査):しこりに細い針を刺して細胞を顕微鏡で確認
• 組織検査(生検・切除):しこりの一部または全体を取り、病理検査で腫瘍の種類を確定
• 画像検査(X線・エコー・CT):転移や周囲への広がりを評価
治療法
腫瘍の種類・悪性度・進行度に応じて治療方針が変わります。
1. 外科的切除
最も基本的で有効な治療です。腫瘍を周囲の正常組織ごと切除し、再発や転移を防ぎます。
2. 放射線治療
切除が難しい部位の腫瘍や、取り切れなかった場合に選択されることがあります。(専門病院へ紹介いたします。)
3. 抗がん剤治療
全身に転移している場合や、肥満細胞腫などで有効とされる薬剤を用いることがあります。(専門病院へ紹介いたします)
4. 緩和ケア
高齢猫や進行がんの場合、生活の質を保ちながら痛みや不快感を和らげる治療を行います。
飼い主さんにできること
• 皮膚にできものを見つけたら、 大きさ・形・色の変化 を観察
• 「そのうち治るだろう」と放置せず、早めに動物病院で相談
• 特に 急に大きくなる、出血や潰瘍がある、猫が痛がる といった場合は早急に受診
まとめ
猫の皮膚腫瘍は、良性の場合もあれば悪性腫瘍(がん)の場合もあります。見た目だけで判断することは難しく、早めの診断と治療が重要です。飼い主さんが日頃から愛猫の体をチェックし、少しの変化にも気づいてあげることが、病気の早期発見・治療につながります。
左の親指を囲んでできた猫の皮膚腫瘤の摘出手術の写真です。毛を刈ると、表皮が欠損し、親指を巻き込んだ肉肉しい皮膚腫瘤があることがわかります。摘出後大きな皮膚欠損部が生じるため、皮弁を形成した自家皮膚移植を行う必要があります。
手術後の写真です。幸い小さな皮弁を形成することで、術創を閉鎖することができました。皮膚のテンションも中程度で血行障害も最小限度で閉鎖することができました。病理検査の結果によって今後の治療を検討することになると思われます。