犬の異所性睫毛(いしょせいしょうもう;逆さまつげ)の症状と原因、治療について|獣医師が解説
眼科 症例紹介犬の異所性睫毛(いしょせいしょうもう;逆さまつげ)の症状と原因、治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
「最近、うちの犬の目やにが増えた気がする」「いつも目をしょぼしょぼしている」——そんな変化に気づいたことはありませんか?それは“異所性睫毛(いしょせいしょうもう;逆さまつげ)”という目の病気が関係しているかもしれません。
この記事では、犬の異所性睫毛について、獣医師の視点からその症状、原因、治療方法についてわかりやすくご紹介します。
異所性睫毛とは?
異所性睫毛とは、犬のまぶたの裏側など、本来まつ毛が生えるはずのない場所から毛が生えてしまう状態を指します。こうした毛が角膜(黒目の部分)に触れることで、さまざまな目のトラブルを引き起こします。
正常なまつ毛はまぶたの外側から外向きに生えているのが一般的ですが、異所性睫毛の場合、内側や涙点付近などから内向きに生えるため、角膜に直接接触してしまいます。
よく似た目の病気との違い
異所性睫毛と似たような疾患に「睫毛乱生」や「眼瞼内反症」があります。睫毛乱生は、本来の場所から生えてはいるものの、毛の向きが内側を向いてしまって角膜に当たる状態です。一方、眼瞼内反症はまぶた全体が内側に巻き込まれてしまう病気で、まつ毛だけでなく皮膚ごと角膜に接触します。
症状
異所性睫毛の代表的な症状は、涙が多くなる、目をしょぼしょぼさせる、前足でしきりに目をこするなどです。さらに進行すると、目の表面が傷つき「角膜潰瘍」と呼ばれる状態になることがあります。これは放置すると視力に影響する恐れがあるため、早めの対応が重要です。
目の充血や慢性的な結膜炎がみられる場合もあり、原因がわからないまま放置されているケースも少なくありません。
原因
異所性睫毛は、多くの場合、生まれつきの体質によるものです。特に、シーズー、トイ・プードル、チワワ、パグ、マルチーズなどの犬種では比較的多く見られます。生後数ヶ月から1歳前後にかけて、初めて症状が現れることがよくあります。
また、まれに外傷やまぶたの手術後の瘢痕部分から毛が異常に生えるケースもありますが、これは後天的な原因とされます。
診断方法
異所性睫毛の診断は、眼科用の拡大鏡やスリットランプを使って目の表面を詳細に観察することで行います。角膜に傷がある場合には、蛍光染色(フルオレセイン染色)を行って傷の範囲や深さを調べることもあります。毛が非常に細くて肉眼で確認しづらい場合は、軽い鎮静や麻酔を用いて検査することもあります。
治療法
まず症状が軽度である場合、一時的に点眼薬で炎症を抑えたり、毛を抜いて様子を見たりすることもあります。何度か毛を抜くことで、生えなくなるケースもありますが、基本的には抜いた毛はまた生えてくるため、根本的な解決にはなりません。
根治を目指す場合、外科的な治療が必要になります。もっともよく行われるのは、「冷凍凝固法」と呼ばれる治療法で、異常なまつ毛の毛根を極低温で凍結し破壊する方法です。侵襲が比較的少なく、再発も少ないのが特徴です。
他にも、電気焼灼やレーザーによる毛根破壊、さらにはまぶたの皮膚を切除して再建する形成手術なども選択肢に入ります。これらは症例に応じて選択されます。
放置した場合のリスク
異所性睫毛を放置すると、角膜が慢性的に刺激を受け、潰瘍や混濁、場合によっては視力障害につながる可能性があります。角膜が白く濁ってしまったり、痛みによって元気がなくなったり、ひどい場合には眼球摘出が必要になることもあるため、放置は厳禁です。
飼い主さんへのアドバイス
目やにが増えた、涙が多い、しょっちゅう目をこする——こうしたサインは、異所性睫毛の可能性を示すことがあります。特に若い犬や、先に挙げた好発犬種では、早めの診察が大切です。
目の病気は見た目だけでは判断しにくいため、「なんとなく様子が変だな」と思ったら、ぜひ動物病院での検査を受けてください。早期発見と適切な治療で、大切な目を守ってあげましょう。
この写真は若いマルチーズの右目です。赤矢印のところに異所性睫毛(いしょせいしょうもう;逆さまつげ)があり、慢性的な結膜炎が生じています。初期は無麻酔でこのまつ毛を抜く処置を定期的に行いますが、将来的には麻酔下で冷凍凝固法(クライオサージェリー)で毛根を凍結し、毛根を破壊する治療法をする必要があるかもしれません。