猫はなぜ慢性腎不全になってしまうのか|獣医師が解説
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福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫は高齢になると「慢性腎不全(慢性腎臓病、CKD)」を発症しやすい動物です。実際、10歳以上の猫のおよそ30~40%以上が慢性腎不全を抱えていると言われています。しかし、なぜ猫はこれほど慢性腎不全になりやすいのでしょうか?今回は、獣医師の立場からその原因や背景について詳しく解説します。
慢性腎不全とは?
まず「慢性腎不全」とは、長期間(通常は数ヶ月から数年)かけて徐々に腎臓の機能が低下していく病気です。腎臓は、血液をろ過して老廃物を尿として排泄し、体内の水分や電解質のバランスを整える大切な臓器ですが、慢性腎不全になるとこれらの働きがうまくできなくなり、体に様々な不調が現れます。
初期は無症状のことも多く、進行すると
• 食欲低下
• 体重減少
• 嘔吐
• 脱水
• 貧血
• 高血圧 などが見られるようになります。
猫が慢性腎不全になりやすい理由
猫が慢性腎不全になりやすい理由は、いくつかの生物学的・環境的な要因が関係しています。
1. 猫はもともと砂漠の動物だった
猫の祖先は乾燥地帯に生息していた動物で、水をあまり飲まなくても生きられるように進化してきました。そのため腎臓は、少ない水分で効率よく尿を濃縮して老廃物を排泄できるように高度に発達しています。
しかし、現代の家庭猫ではこの「水をあまり飲まない」性質が逆に仇となり、慢性的な脱水状態になりやすく、それが腎臓への負担を蓄積し、腎機能の低下を招いてしまうのです。
2. 加齢による自然な腎機能の低下
腎臓は非常に細かい血管の塊でできた臓器です。加齢とともに血管は徐々に硬くなり、ろ過機能も低下していきます。
猫では7歳を超えたあたりから腎機能の低下が始まると言われており、特に高齢猫では自然な老化の一環として慢性腎不全が発症するリスクが高まります。
3. 遺伝的な素因
一部の猫種、例えば
• ペルシャ
• アビシニアン
• メインクーン
• シャム猫 などは、慢性腎不全や腎疾患にかかりやすい遺伝的素因を持つことが知られています。
また、「多発性嚢胞腎(PKD)」と呼ばれる遺伝病もあり、特にペルシャ系の猫ではこの疾患によって若いうちから腎不全を起こすケースもあります。
4. 歯周病や感染症の影響
猫の重度の歯周病や慢性的な口腔内感染が、腎臓へ悪影響を及ぼすことがわかってきています。
細菌が血流に乗って腎臓に到達し、慢性的な炎症やダメージを引き起こすことがあるのです。
また、猫特有のウイルス感染症(猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス)も、免疫力の低下を通じて腎臓病のリスクを高める要因となります。
5. その他の要因
• 高血圧
• 腎結石
• 尿路感染症の慢性化
• 一部の薬剤の副作用(例:非ステロイド性抗炎症薬)
これらも腎臓にダメージを与えることがあり、慢性腎不全の引き金になります。
まとめ
猫は進化の過程や生物学的特性、そして現代の生活環境の影響もあって、非常に慢性腎不全になりやすい動物です。
ただし、早期発見・早期治療・適切な食事管理によって進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることは可能です。
7歳を超えたら、年に1回以上の血液検査・尿検査を受けさせ、腎機能をチェックすることをおすすめします。
愛猫が少しでも長く健康でいられるよう、日頃からこまめな水分摂取のサポートや、適切な食事管理にも気を配ってあげましょう。
この写真は高齢の猫の腎嚢胞のエコー図です。腎臓の中に黒い丸い液体の溜まった袋が確認されます(赤矢印)。嚢胞とは液体が溜まった袋のことを言います。この子の腎臓は経年齢性の変化を起こしており、血液検査でBUNとCREの若干の高値を示したため、腎不全フードへの移行を行いました。腎機能悪化のスピードを遅らせることを主眼として行なっています。