猫の慢性腎不全の進行を遅らせる方法について|獣医師が解説
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福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
猫に多い病気「慢性腎不全(慢性腎臓病・CKD)」。
一度発症すると完治は難しい病気ですが、適切なケアを続けることで進行を遅らせ、愛猫の寿命と生活の質(QOL)を大きく伸ばすことが可能です。
今回は、獣医師の立場から「猫の慢性腎不全の進行を遅らせる具体的な方法」について、わかりやすく解説します。
なぜ進行を遅らせることが大事なのか?
腎臓は非常に繊細な臓器で、一度壊れてしまった部分は基本的に元に戻りません。
そのため、壊れていない部分を守り、少しでも長く機能を維持することが、慢性腎不全と上手に付き合うための鍵となります。
慢性腎不全の進行を遅らせるための方法
1. 療法食(腎臓病用フード)を活用する
最も効果的な対策のひとつが、腎臓病用の療法食に切り替えることです。
●療法食の特徴
• タンパク質の量を適切に制限(腎臓への負担を減らす)
• リンの量を厳しく制限(リンの蓄積が腎機能を悪化させるのを防ぐ)
• ナトリウム(塩分)も控えめ(高血圧を防ぐ)
• 高カロリー・高嗜好性設計(食欲低下をサポート)
臨床研究でも、腎臓病用フードに切り替えることで生存期間が約2倍になったというデータがあります。
※いきなり切り替えると食べない子もいるため、数日~数週間かけて徐々に切り替えることがポイントです。
2. 水分摂取をしっかりサポートする
慢性腎不全の猫は、脱水に陥りやすくなっています。
脱水はさらに腎臓に負担をかけるため、水分摂取量を増やす工夫が非常に大切です。
●水分摂取を増やす工夫
• 複数の場所に清潔な水を置く
• 流れる水(ウォーターファウンテン)を設置する
• ウェットフード(腎不全用フード)や水分多めの食事を取り入れる
• 必要に応じて、皮下補液を家庭で行う
特に皮下補液(皮膚の下に点滴を入れる方法)は、獣医師と相談の上で行えば効果的な脱水予防になります。
3. 高血圧をコントロールする
慢性腎不全の猫の約20~60%が高血圧を伴うといわれています。
高血圧は腎臓をさらに傷つけるため、早期に見つけて管理することが重要です。
●対策
• 適切な食生活
• 高血圧が見つかれば、降圧薬の投与。しかし、猫は投薬することで食欲を落とすこともあるので、その子その子で適切かどうか判断しながら行います。
血圧を正常に保つことで、腎機能低下のスピードを抑えることができます。
4. リンの制御(リン吸着剤の使用)
療法食だけでリンを十分に制御できない場合は、リン吸着剤を併用することもあります。
しかし、猫は投薬することで食欲を落とすこともあるので、その子その子で適切かどうか判断しながら行います。
食事と一緒に投与することで、体内に吸収されるリンを減らし、腎臓への負担を軽減します。
5. 尿毒症のコントロール(消化管吸着剤の使用)
進行して尿毒素がたまってきた猫には、尿毒素を吸着して排出を助ける薬(消化管吸着剤)が使われることもあります。
しかし、猫は投薬することで食欲を落とすこともあるので、その子その子で適切かどうか判断しながら行います。
これらを適切に使うことで、食欲や元気を維持できる場合があります。
6. 定期的な健康チェックとモニタリング
定期的な通院によって、体重、脱水の程度、貧血の程度など、詳しくは血液検査・尿検査・血圧測定などを定期的に行い、必要に応じて治療内容を調整していくことが、進行を防ぐために不可欠です。
まとめ
猫の慢性腎不全は、進行性で完治できない病気ですが、
適切な食事・水分管理・薬物療法・定期的な検査によって、進行を大きく遅らせることができます。
大切なのは、「症状が出てから治療する」のではなく、
症状がないうちから生活管理を始めること。
愛猫の健やかな未来のために、できることを少しずつ実践していきましょう。
現在さまざまなメーカーからさまざまな原材料(肉、魚など)を用いた腎不全用療法食が販売されています。猫は嗜好性にうるさく、食べないフードは全く食べないことが多いですが、食べる腎不全用療法食が見つかると、寿命まで普通の生活が営める子も出てきています。早期発見早期治療が大事な病気なので、体重減少や、薄いあまり匂わないおしっこをして、多飲多尿が目立つ猫は動物病院へご相談ください。