猫の慢性腎不全の治療について|獣医師が解説 NEW
腎泌尿器科 血液科 症例紹介猫の慢性腎不全の治療について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
今回は猫の腎不全の具体的な治療法について述べたいと思います。
猫の慢性腎不全の主な治療法
1. 療法食(腎臓病用フード)
食事療法は最も重要な治療の柱です。
✅ 療法食の特徴
• 低タンパク質(ただし必要最低限は確保)
• 低リン
• 適切なナトリウム制限
• 高カロリー設計
• 抗酸化成分やオメガ3脂肪酸を配合していることも
これにより、腎臓への負担を軽減し、症状の悪化を抑える効果が期待できます。
猫が食べやすいよう嗜好性も工夫されていますが、切り替えは徐々に行いましょう。
2. 水分補給と脱水予防
腎不全の猫は脱水しやすくなります。脱水は腎機能をさらに悪化させるため、水分摂取を確保することが重要です。
✅ 方法
• 新鮮な水を常に用意
• 流れる水(ウォーターファウンテン)を設置
• ウェットフードを取り入れる
• 必要に応じて皮下補液(皮膚の下に点滴を入れる)を行う
皮下補液は獣医師の指導のもと、自宅でできるようになることも多いです。
3. 血圧管理
慢性腎不全に伴う高血圧は、さらに腎臓を傷つけ、失明や脳血管障害を起こすリスクもあります。
✅ 対応策
• 血圧を測定する
• 必要に応じて降圧薬を使用する
血圧を正常に保つことで、腎臓や他の臓器のダメージを防ぎます。
4. リン管理とリン吸着剤の使用
血中リン濃度の上昇は、腎不全の悪化を早める原因になります。
✅ 方法
• 療法食でリン摂取を制限
• それでもリン値が高い場合は、リン吸着剤を食事と一緒に投与する
これにより血中リン濃度をコントロールし、腎臓への負担を軽減します。
5. 貧血対策
腎不全が進行すると、腎性貧血(エリスロポエチン不足による貧血)が起こることがあります。
✅ 治療
• 鉄剤の投与
• 必要に応じてエリスロポエチン製剤(造血ホルモン)を注射
貧血を改善することで、食欲や元気が回復する場合があります。
6. 尿毒素コントロール
進行した腎不全では、尿毒素(老廃物)が体内にたまってきます。
✅ 対応策
• 消化管吸着剤を使用して尿毒素を減らす
• 吐き気や食欲不振には制吐剤や制酸剤、食欲刺激薬を併用
猫がより快適に過ごせるよう、症状に応じたサポートを行います。
7. 新しい腎保護薬(ラプロスなど)
近年、腎臓の線維化(硬くなること)を抑制する薬「ラプロス(ベラプロストナトリウム)」が使用できるようになりました。
✅ 特徴
• 血流を改善し、腎臓を守る作用
• 初期~中期の腎不全で特に有効とされる
従来の治療に加えて使用することで、進行をさらに遅らせる可能性が期待されています。
治療は「猫ごとにカスタマイズ」
慢性腎不全の進行度や症状は、猫によって大きく違います。
そのため、
• 血液検査・尿検査の結果
• 猫の食欲や生活状況
などを総合的に判断し、個別に治療プランを立てることが重要です。
また、定期的な検査・モニタリングを続けながら、治療内容を柔軟に見直していく必要があります。
まとめ
猫の慢性腎不全は、完治できないものの、
適切な食事・水分管理・薬物療法・定期検査を組み合わせることで、進行を大きく遅らせ、生活の質を維持することが可能です。
愛猫の健康を守るために、獣医師とよく相談しながら、
その子に最適な治療プランを一緒に作っていきましょう。
早めの対応と日々のケアが、愛猫の未来を大きく変えるカギになります。