トイプードルが罹患しやすい病気の症状と原因、治療について|獣医師が解説
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福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
ふわふわの被毛と愛らしい表情で人気の高いトイプードル。性格も明るく社交的で、家庭犬として理想的な犬種です。
しかし、その反面、トイプードルは体のつくりや遺伝的な体質の影響で、いくつかの病気にかかりやすい傾向があります。
ここでは、現役の獣医師の視点から、トイプードルが注意すべき代表的な病気と、その症状・原因・治療法についてわかりやすく解説します。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
トイプードルに非常に多いのが、後ろ足の膝のお皿が外れてしまう「膝蓋骨脱臼(パテラ)」です。
主な症状は、片足を上げてケンケンするように歩く、走り方がぎこちない、座る姿勢が不自然になるなどです。
この病気の原因は、膝のお皿を支える溝が浅かったり、筋肉や骨格のバランスが崩れていたりすることにあります。遺伝的要素が強く、さらに滑りやすいフローリングや高い場所からのジャンプが悪化のきっかけになります。
軽度であれば体重管理や筋肉トレーニング、床にマットを敷くなどの生活改善で進行を抑えられます。重度の場合は、手術で膝蓋骨の位置を整える必要があります。
歯周病
トイプードルは口が小さく歯が密集しているため、歯石や細菌がたまりやすく、歯周病が起こりやすい犬種です。
口臭が強くなる、歯ぐきが赤く腫れる、食べ物を噛むときに痛がるなどの症状が見られたら注意が必要です。
放置すると、歯の根元に膿がたまり、顎の骨が溶けてしまうこともあります。治療には、全身麻酔下でのスケーリング(歯石除去)や、重度の場合は抜歯が必要になることもあります。
何よりも大切なのは予防です。毎日の歯磨きや、食事の適正化、定期的な歯科検診で健康な口内環境を保ちましょう。
外耳炎やアレルギー性皮膚炎
トイプードルは垂れ耳のため耳の中の通気性が悪く、湿気がこもりやすい構造をしています。また、アレルギー体質を持つ子が多く、食事内容や飼育方法によっては、細菌やマラセチア(真菌)が繁殖して外耳炎や全身性の皮膚病を起こしやすい犬種です。
体や耳をかゆがる、毛が抜ける、匂いが強くなった、頭を振る、耳の中が臭う、耳垢が増えるといった症状が見られたら、皮膚病や外耳炎のサインです。
治療は診断した上で行います。慢性化している場合は定期的な治療が欠かせません。予防のためには、トリミング後の皮膚や耳の乾燥と定期的なチェックが大切です。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
中高齢のトイプードルでよく見られる内分泌疾患が、クッシング症候群です。
水をよく飲み、尿の量が多くなる、食欲が強いのに痩せていく、毛が薄くなる、皮膚が薄くなるといった症状が特徴です。
副腎から分泌されるホルモン(コルチゾール)が過剰に出ることで、体の代謝バランスが崩れて起こります。原因は副腎や脳下垂体の腫瘍などさまざまです。
治療にはホルモン分泌を抑える薬の投与や、場合によっては腫瘍の外科的摘出が行われます。治療効果を維持するためには、定期的な血液検査によるホルモン値の確認が欠かせません。
眼の疾患
アレルギーや鼻梁部の毛が目の中に入ることで、慢性的に結膜炎を起こしやすく、流涙症として涙やけが続く子がいます。また、トイプードルは遺伝的に白内障を発症しやすい犬種です。
白内障の原因は加齢によるもののほか、遺伝や糖尿病などの基礎疾患が関係している場合もあります。
早期に気づくことで進行を遅らせることができるため、定期的な眼科検診がおすすめです。
低血糖・低栄養(特に子犬で注意)
購入後のトイプードルの子犬は、体が小さく、エネルギーをためる力が弱い上に、親兄弟から早期に離されて販売されているために低栄養傾向で、低血糖を起こしやすいことがあります。
ふらつく、元気がない、けいれんを起こす、反応が鈍いなどの症状が出たら危険信号です。
発作が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
予防のためには、空腹時間を長くしないよう1日4〜5回に分けて食事を与えることが大切です。
おやつなどを不適切に与えることで生育を阻害し、栄養状態の悪化やアレルギー症状、下痢吐き戻しを引き起こさせることがあるので、購入後は一度動物病院で診察を受けて初期の飼育方法のポイントなどを確認しておくことをお勧めいたします。
急性膵炎
急性膵炎は、強い胃腸障害で、適切に対応しないと命を落とすこともあります。原因はよくわかっていないことが多いですが、臨床現場では不適切な食事管理によって引き起こされている印象があります。つまり「おやつ病」と言っても良いかもしれません。トイプードルは特に重症化しやすい印象があります。救命・改善しても、専門的な消化器ケアのフードのみでの飼育が必要になったり、膵外分泌不全症や糖尿病に発展するケースがよく見られます。よって最初から適切な飼養管理で飼育することが大切です。
日常生活で気をつけたいポイント
トイプードルの健康を守るためには、日々の小さな習慣が何より大切です。
滑りやすい床にはマットを敷き、ジャンプや高い場所からの降りる動作を控えましょう。
本人の毛艶や身なりをよく観察して、目や皮膚、体重の変化にも敏感に気づいてあげてください。
人に愛情を持って、よく慣れ、とても明るい性格の子が多いですが、人への依存が強く、一人で留守番させたり、ペットホテルに預けると分離不安の症状から問題行動をひき起こしたり、体調が悪化したりすることがありますので、注意しましょう。
また、定期的な健康診断や血液検査を受けることで、クッシング症候群などの内臓疾患を早期に発見できます。
トイプードルは繊細で賢く、人との絆を深められる犬種です。予防と早期発見を心がけ、いつまでも元気に長生きできるようサポートしてあげましょう。
まとめ
トイプードルは見た目の可愛らしさだけでなく、飼い主に深い愛情を示す犬種です。
その反面、関節、歯、皮膚、耳、ホルモン、目、胃腸、分離不安など、いくつかの部位で病気のリスクを抱えています。
しかし、飼い主さんが日頃から体の変化に気づき、早めに病院を受診することで、多くの病気はコントロールすることができます。
「おかしいな」と感じたときが、いちばん大切なタイミングです。愛犬の健康を守るのは、毎日の小さな気づきと行動から始まります。