猫の交通事故による頭部の損傷の症状と原因、治療と予防について|獣医師が解説 NEW
症例紹介猫の交通事故による頭部の損傷の症状と原因、治療と予防について|獣医師が解説
福岡市早良区、福岡市西区、福岡市城南区、福岡市中央区、糸島市のみなさん、こんにちは。
福岡市早良区の次郎丸動物病院の獣医師の矢野です。
近年、完全室内飼育が推奨されているとはいえ、外に出る猫や外で暮らす猫にとって交通事故のリスクは避けられません。特に頭部への損傷は命に関わる重篤な状態になることが多く、迅速な対応が重要です。
今回は、猫が交通事故に遭った際に見られる頭部損傷の症状、原因、治療方法、そして予防策について、獣医師の立場からわかりやすく解説します。
1. 猫の交通事故による頭部損傷の主な症状
交通事故で頭部に損傷を受けた猫は、外傷だけでなく、脳へのダメージや神経系の障害も伴うことがあります。
●よく見られる症状
• 意識が朦朧としている、もしくは意識を失っている
• 頭部からの出血(鼻、口、耳)
• 瞳孔の大きさが左右で違う(瞳孔不同)
• ふらつき、バランスが取れない
• 痙攣(けいれん)や震え
• 呼吸が浅くなる、または不規則
• 嘔吐、失禁
• 目が焦点を合わせられず、視線が定まらない
• 顎の左右対称性が保たれていない。(下顎の骨折の所見)
特に瞳孔の異常や意識障害は、脳損傷や脳出血のサインであり、緊急を要します。
2. 原因:なぜ猫は交通事故に遭ってしまうのか?
① 外に出る習慣がある
自由に外に出られる環境では、猫は自分の縄張りを巡回する習性があり、特に夜間や早朝に行動が活発になります。この時間帯は視認性が低く、車の運転手が猫に気付きにくいため、事故につながりやすいです。若い時に避妊去勢手術を行い、幼猫の頃から完全室内飼育をすることで、猫が外に出たい衝動を抑えることができます。
② 突然の飛び出し
猫は物音に敏感で、驚くと急に飛び出すことがあります。道路に面した庭や駐車場などではとっさの動きが命取りになることも。
③ 子猫や老猫の判断力不足
若い猫や高齢猫は、判断力や反応速度が鈍いことがあり、車との距離感を正確に掴めず事故に巻き込まれる可能性が高まります。
3. 治療:交通事故後の対応と治療方法
猫が交通事故に遭った場合、すぐに動物病院に連れて行くことが何よりも大切です。頭部の損傷は見た目だけでは判断がつかない場合も多く、精密検査が必要です。
●初期対応(飼い主ができること)
• 無理に動かさず、なるべく平らな面に寝かせる
• 呼吸や脈拍を確認する
• 保温を心がけ、急激な体温低下を防ぐ
• 安全に運べる状況であれば、すぐに動物病院へ
●動物病院での主な治療内容
• X線、血液検査、画像診断などで頭蓋骨や脳の状態を確認
• 脳浮腫や出血がある場合は、内科的治療(点滴、ステロイド等)や外科的処置
• 意識障害がある場合は、入院管理とモニタリング
• 痙攣があれば抗けいれん薬の投与
• 目や耳の損傷がある場合はそれぞれの部位に応じた処置
• 全身状態が落ち着いた後に外科的対応が必要になることが多いです。
※頭蓋骨骨折や脳損傷の重度によっては、完治・救命が難しい場合もあります。
4. 予防:交通事故から猫を守るためにできること
① 完全室内飼育を徹底する
最も確実な予防策は、猫を外に出さないことです。室内飼育であれば、交通事故に遭うリスクはほぼゼロになります。完全室内飼いを実現するためには避妊去勢手術を若い時に行い、性衝動による外出のリスクをなくすことが必要になります。
②ベランダや玄関の脱走対策を強化
窓や玄関からの脱走を防ぐために、脱走防止柵や網戸ストッパーを設置しましょう。
③マイクロチップや迷子札の装着
万が一の脱走や事故後の迷子に備えて、身元がわかるようにしておくことも大切です。
5. まとめ|命を守るためにできること
・猫が交通事故で頭部に損傷を負った場合、命に関わる重大な事態となることがあります。
・特に外傷がなくても、脳にダメージを受けているケースもあるため、事故後はすぐに動物病院へ連れて行くことが重要です。
・そして何より大切なのは、事故を未然に防ぐための環境づくり。室内飼育や脱走対策をしっかり行い、大切な愛猫を守りましょう。愛猫の安全を第一に、今日からできる対策を見直してみてくださいね。
このこは保護された子で、左目の重度の損傷と唾液の分泌と鼻と口からの出血で来院されました。意識障害はありませんが、頭部に強い衝撃が加わった可能性がある所見で交通事故の可能性が考えられました。口の損傷が激しいことで食欲は廃絶していました。
検査でバイタルが安定していることが確認されたので、全身麻酔下で左目と下顎の整復術を行いました。残念ながら、目は潰れてしまっていたため、眼球を摘出せざるを得ませんでした。また、写真の緑の矢印のように下顎の真ん中で骨折していたため、ワイヤーを用いた下顎骨折の整復術が必要となりました。
下顎骨折をワイヤー固定した後の写真です。緑の矢印のように下顎の犬歯の左右対称性が回復し、顎のズレがないように固定することができました。
処置後、2日目から食欲が回復しました。写真は手術後2週間目のもので、左目は失われましたが、本人は元気を取り戻しました。この子は幸い救命することができましたが、交通事故は必ず救命できるとは限りません。出来るのであれば交通事故が起こらない対策が大切になります。